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2016-10-08 19:50:00
日ロ関係の21世紀(13) 「対ロ経済協力1兆円超 政府案・極東3港湾など41件」という見出しの記事が『北海道新聞』2016年10月8日号1ページと3ページに載っていた。それに基づいて記事の要点を記す。★今年5月に安倍首相がロシア・ソチで行われたプーチン大統領との会談で始めて示した「8項目の対ロ経済協力」(医療、都市づくり、中小企業交流、エネルギー開発、生産性向上、極東の産業振興、先端技術、人的交流の8項目)。その後の経過も経て、現在はどのようにまとめられているのかというあらましがこの記事に載っている。★この「対ロ経済協力プラン」というのは、いろいろ並んではいるが、どれがどう具体的なものとして、それぞれがどの程度の比重を持って、把握できるかがこれまで大変にあいまいであった。この記事によってそういう比重がつかみやすくなった。★私は記事を読んで考えた。この「1兆円」という金額が人の目を引くが、「ウラジオ近郊の約6千億円規模に及ぶ石油化学プラントの建設」という金額が突出していて、それに「サハリンやシベリア、北極海沿岸における石油・天然ガスの共同開発促進」とあるのをプラスして考えれば、なんといっても「エネルギー開発」という項目が突出していて「1兆円」の3分の2にも及ぶであろう。日ロ大企業が行う案件である。「ウラジオストク、ザルビノ、ポストチヌイの極東3港湾の機能強化」、「ハバロフスク国際空港の整備や運営への参画」は、明らかに日ロ大企業間経済協力の前提となる極東における「インフラ整備」である。「国家的協力」の比重が強く、「国民的協力」の比重は弱い。★もっとも小室直樹さんによると、領土問題は国家的問題であって国民的問題ではないのだそうだ。だから国家的な「領土問題」にかかわるのが「国家的協力」なのかもしれない。
2016-10-07 23:20:00
大前研一氏、ロシア・ショック(2) 大前研一『ロシア・ショック』講談社、2008年 目次 ★序章 激変する世界の潮流 ★第1部 変貌するロシア 第1章 プーチンの奇跡 1.どん底から急転したロシア経済 2.ロシア経済を変えたフラットタックス 3.プーチン人気の秘密 4.2020年まで続く「プーチンのロシア」★第2章 拡大する市場 1.ロシアの3つの資源 2.市場としてのロシア 第2部 ロシアン・ビジネス・チャンス 第3章 愛される日本、出遅れる日本 1.無条件に日本が好きなロシア人 2.ロシア進出最新事情 ★第4章 21世紀のIТ大国・ロシア 1.世界のハイテク企業はロシアを目指す 2.勃興するロシアのIТ企業 3.ロシア企業の巨大なパワー ★第3部 世界の潮流とロシア 第5章 内政・外交の光と影 1.悶える中国、突き抜けたロシア 2.ロシアの抱える外交課題 ★第6章 ロシアとEU 1.ロシアがEUに入る日 2.EUショック 終章 日ロ関係の未来図 ★この本の全体は、北方領土問題などにこだわりすぎないで、日本は早くロシアと平和条約を結んで2国間の通常の国交を開き、発展性のある経済を抱えているこの国と、もっと積極的に交際すべきだというのである。今日の安倍首相の日ロ交渉態度と「矛盾していない」と私は判断している。いまの日ロ交渉は国民にはまるで「判じ物」を読むような分かりにくさであり、それというのも情報開示もねんごろな説明もなにも、まったくなされていないからである。もっかの日ロ交渉の目玉が日ロ大企業の提携に集中することの現実性も、大前著を一読すればすぐわかる。なに大前氏も、経済交渉はもっぱら日ロ大企業間の交渉としてしか描いていない。こういう交渉は当然にロシア全土をにらんでのもので、極東ロシアに限った議論ではありえない。日本側ももちろん日本全体を想定している。ただ、領土としては、また物理的関係としては、極東ロシアとわが北海道が隣り合っている、というだけのことである。★大前氏がこの本でEUとロシアの関係を論じている下りは、現在の国際政治関係をみればいまの大前氏ならこれとは違う語りようをするだろうという気がする。しかし、それはそれとして、面白く、念頭に置いてよい視角だと思う。★そもそも極東ロシアというのは、ロシア国内全体からみれば大変な僻地で、人口密度が徹底的に低い地域なのだ。★そして極東ロシアの人口密度は、ソ連時代と比べてすら低下している。旧ソ連邦は3億の人口があったが、今日のロシア共和国はその半分の人口しかない。そして過去十数年の激動のなかで、ロシア共和国の人口は減ってきている。国外に脱出した人口がかなりに上った。ただ、大前氏は、このロシアに、大きな将来性ありという評価を与えるのである。そう評価する理由はこの本に書いてある。
2016-10-07 22:33:00
日ロ関係の21世紀という書き込みを10回ほど続けてきた。ところでこのほど、大前研一氏『ロシア・ショック』講談社、2008年を手にした。数年前の本であり、いまではここに書かれたことと違った現実になっている面ももちろんあるが、この本の全体が私たちに示している議論は、今日、安倍首相がロシアのプーチン大統領と協議中の日ロ関係の交渉と大筋で符合していると私は思う。この本が示している主要な論点を、数回にわたってみなさんにご紹介しよう。★私がこれまで「日ロ関係の21世紀」として10数回記入してきた現実認識を、この大前著に照らして、明らかに私が間違っていた点のみまず大急ぎで示しておきたい。★1 私は「シベリア」という言い方を盛んにしてきたが、これは誤解を招くようだ。大前著によればロシアは7つの連邦管区に分かれていて、ヨーロッパ側からアジア側へ向かって数え上げると、北西連邦管区、中央連邦管区、南連邦管区(この3つの管区は北から南に揚げた)、沿ヴォルガ連邦管区、ウラル連邦管区、そして、シベリア連邦管区、極東連邦管区。しかり。日本に接しているロシアの地方は、「極東連邦管区」である。シベリアという言い方をすると、それよりヨーロッパ寄りの「シベリア連邦管区」を指すように聞こえる。(56ページ)★2 私は「第2シベリア鉄道線」という名を挙げたが、これは未完成の開発路線で、確かにソ連邦当時はこの第2シベリア鉄道線の完成に当局は熱心であった。それは確かにサハリンの対岸から発足する。しかし今日ロシアが話題にし、韓国などでも話題になっているのは、サハリンの対岸からウラジオストクへ向けて鉄道を敷いて、いわゆる「第1シベリア鉄道」につなぐことである。また、この「第1シベリア鉄道」を強化して、新幹線化したりすることである。今のロシアでは日本車の評判は極めてよく、もちろんよく売れる。そしてロシア人は日本車がロシア国内で製造されることをあまり評価しない。日本からの輸入で何ら問題ない。ただ、たとえばモスクワやサンクトペテルブルクまで日本車を運ぶのが大変で、海上輸送ルートなら60日もかかり、シベリア鉄道を使っても20-25日もかかる。(123ページ)それ故に、もしシベリア鉄道線が高速化されるならメリットだろうということになろう。あるいは北極海航路でも、まさか60日はかかるまい。もっと早いはずだ。★そういうことをされたら、韓国の自動車が日本との競争上大変だという含みであろう。
2016-10-06 22:35:00
日ロ関係の21世紀(12) 日本とロシアの「企業提携」が現在進行中の日ロ協議の目玉となりそうだ。ロシア側の金融・資金体制が弱いことは明らかだ。「企業提携」に伴う「金融支援」のありようはどうか。この点で日本政府の「ロシア経済分野協力推進会議」の中の、9月5日に初めて開かれた「金融作業部会」の実情は、その内容を知るうえで参考になる。★『北海道新聞』2016年10月6日号4ページの「対ロ経済協力支援要請 政府、道銀など金融機関に」という記事が載っている。それによれば、「日本が提案した8項目の対ロ経済協力プランの実現には金融支援が不可欠」だから「プロジェクトを進める上では出資や融資などのファイナンスは避けて通れない」。「12月15日に山口県で開かれる日ロ首脳会談をゴールにして具体的な検討を加速する」のがこの会議の趣旨だ。今回の参加銀行は北海道銀行のほかは、三菱東京UFj、三井住友、みずほ、農林中央金庫、国際協力銀行、日本政策投資銀行等。(私は、すでにプランに参加する企業が決まっていて、顧客企業がプランに参加するがゆえに、その取引銀行がこうやって集まるのだとおもうが)。国際協力銀行が、「日本企業の関与する対ロ経済協力案件に対する出融資を積極的に進めていく方針を表明しており、同行は三井物産と組んでロシア国営電力大手の株式を最大4.88%取得することを決めている由」(私。シベリアに電力網を張り巡らせるとなると、寒冷地配電に強力な技術的経験をもつ北海道電力が出馬する日は遠くなさそうだ。北電抜きにはこういうことは難しかろうよ。)
2016-10-05 21:57:00
日ロ関係の21世紀(11) 元来ロシアのプーチン大統領と米国の間柄は、最近きわめて険悪である。ウクライナ問題とシリア問題で、米国がプーチン大統領とその側近に対して、ただならぬ緊張を示している。たった今配達されたアメリカのTIME誌、2016年10月10日号は、おそるべきカバー記事を掲げた。(18-25ページ)表紙ではこう書いている。Russia wants to undermine faith in the United States election. Don't fall for it. By Massimo Calabresi. 目次ではこう示している。Confidence Game. Why Russia wants to undermine the U.S. presidential election. Plus: 6 routes to election rigging and how much to worry about them. 本文は次のタイトルで始まっている。Hacking The Voter. What's Behind Russia's Effort To Influence The U.S. Election. 内容は、プーチンがアメリカの大統領選挙に介入していると非難している。いっぱいいろいろ並べているが、一方の候補者であるトランプ氏にエールを送ったり、大統領選挙の投票のありように懸念してみたり、いろいろやっていると。(最近ヤフーが米国内でのヤフーのメール内容を米国政府に開示したことがあったと報じているが、こういうこととも関係があったのかもしれない。) このような記事は異様であり、ずいぶんマニアックにも感じる。他方でアメリカは大統領選の最中で国家意思を示しにくい時期でもある。★この同じプーチン大統領と交渉するのか。私は今の日ロ交渉の主眼は日ロ大企業の提携の交渉だと考えるから、国際制裁が関連するものとは思わないが、しかしパワーダイナミクスはどんな理屈でも付けてくるものだ。ご注意まで。
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