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2022-10-09 09:21:00
『太平記』に思う(2)
『太平記』は、日本史の南北朝騒乱時代をえがくもの・北条氏滅亡から足利氏の勃興の経過をえがくもの・だが、私に深い思い入れがあるのは、往時、国民学校2年生の頃の思い出につながるからである。当時私は父親出征直後、家には母と私を頭に3人の幼児、それに祖父、という家族。なんら特別の収入はなく、「出征兵士の家」というご縁だけで生きていた。そもそも当時は買うものがほとんどないので、収入がなくとも生きていけたが。組の担任は加藤年子先生という方で、「父親のいない家庭」ということで、非常に配慮しておられた。組の黒板の脇に先生が整えた本類が一抱え置いてあって、組の学童は自由に持ち帰って読んでいいことになっていた。本は、日本の国ができたころの物語(天皇がこの国を統治する来歴)、南北朝騒乱の時代(楠木正成の話など宮方活躍の話)、今の日本の戦争で活躍した軍人の話、がその内容である。私はこれらの本の熱心な愛読者だった。あるとき加藤先生は私を呼んで言われた。君のお父さんは楠木正成のように天皇の命を守るため出征された。君はその子正行のようなものだ。よくお父さんの使命を理解し、お父さん不在の家を守るように。当時戦局は不利になっていたようだが、私は学校の行き帰りに空を仰いで、早く大人になったら、戦闘機の操縦桿を握ってあの大空を行き、戦果を挙げたいものだと、よく空想した。こういう歌がある。「あなものものし、八万騎、大将師直いずくにか、汝の首をとらずんば、ふたたび生きてかえるまじ」。