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2019-03-28 12:48:00
サイモン・シン『フェルマーの最終定理』新潮文庫、2006年。★ピタゴラスの定理というのがある。「直角三角形において、斜辺の二乗は他の二辺の二乗の和に等しい」。数式で表すと、x二乗+Y二乗=z二乗。これを三乗からN乗まで拡大した式には、「整数解はない」というのが、このフェルマーの定理という問題である。そのようなx、Y、zの整数値は得られないというのだ。人類の歴史の中でこれの証明は難問とされていたが、17世紀にフランスの数学者フェルマーが、この証明ができたと言い残して死んだ。さてフェルマーはこれをどう証明したのだろうというのが数学者たちの懸案になっていた。★1993年、アメリカの数学者、アンドリュー・ワイズが、「この証明ができた」と発表した。数学界は、ワイズの証明を検討した結果、「確かに証明された」と認めた。この難しい話を、数学者でない人にも大筋が分かるように説明している本書は、たいへんに面白い本である。★驚いたことに、ワイズの証明は、数学の世界の中でお互いがあまり関連しなかった諸分野を巻き込んで行われている。また数学史上の大きな研究のうねりをことごとくというほど巻き込んで行われている。(フェルマーが300年前に、「紙の余白に行った」かもしれない証明とワイズの証明が果たして同じことかという疑いが生じるのもむべなるかな。あるいは両者はまったく質を異にする技かもしれぬ。このように考えを巡らせるのも、意義のあることだ。)★私は大学の1年で「数学」という科目を教養課程でとった。いま先生の名前を忘れ、教科書も思い出せぬ。それはヒルベルト論だった。ヒルベルトという数学者が「公理」ー「定理」という構造に疑問を建てたという話。ユークリッド幾何学を疑い、非ユークリッド幾何学の存在を主張する話。ヒルベルトはこの疑い(公理を疑い数学を再建する)を数学の全体に及ぼそうとした。これが20世紀劈頭に起こった数学史上の大事件として、本書でも大きく引き合いに出されている。ヒルベルト以来100年余、その間にヒルベルト級の大震動がいくつか数学界に起こり、21世紀を前にしてこのワイズの快挙があった。大震動はいまもこれからも起こる。(どういう方面にどういう形で、人類史上最大の震動がおこりそうかは、本書を読んでいるとよく見通せる。)★時間があればまた書く。