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2018-11-17 09:44:00
金融もまた小説の背景になりうる。金融小説から学ぶことも多い。幸田さんと橘さんの小説を話題にし、紹介しながら、わたしなりに二つの本を比較してみることにした。★幸田真音『周極星』中央公論新社、2006年。橘玲『タックスヘイヴン』幻冬舎、2014年。★小説の背景にしている金融事情は、こういうことである。幸田さんの本では、上海で、自動車を販売して得られる債権を、証券化して金融市場で販売するというお話。橘さんの本では、スイスの銀行のシンガポール支店に対して、預けられた日本人の資金が、不正にあって消えたというお話。小説を彩るのは、前者では上海の地理的風俗的事情、後者ではシンガポールの地理的風俗的事情。現地に旅したかのような感興が得られる。そして現地に活躍する日本人(小説の主人公もその中に入る)。別にこのような取引に参加して儲けようとは思わぬ読者(むろん簡単にまねてもうかるという種類の話ではない)も、いっときを海外の異郷に遊ぶ気持ちになれる。(橘さんの本など、話の中に頻々と登場する食べ物と飲み物の話を「味わっている」のでも面白い。)★さて仮想通貨(ビットコイン)を「投資用」に使うというお話。仮想通貨自体は「本物の通貨」ではないから、このこと自体は合法的である。問題は仮想通貨による「投資」がどのような「経済環境」(むろん実態のある経済環境)を作るのだろうかという詮索のほうだ。みなさんこういうことがまったくあり得ないと思うか。(あるとおもったら、さしあたり幸田さんや橘さんのように小説にしてみたらよろしい。たいへん面白い小説になるだろう。)★ところで余談だが、自動車を販売して得られた債権を証券化するというお話。金融としてのこういうことの先例は、「自動車割賦手形」である。これは昭和20年代に行われていたが、結局社会的には手形流通の中に混じって、企業間信用として処理されていたのだ。中国は西欧が(日本もだがね)近代化に際して通過した商業手形流通社会を経由しないで、いきなり投資社会に入っているのだ。だから上海なら上海に限った地域での「信用密度」が弱い(要地間信用は発達しているけどね)。こういう事情がその国の経済世界に意味を持って現れる時期にはまだ達していないのかもしれない。