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安倍首相の発言以来さかんに問題視される世界経済危機の「現実論」だ。
しかしこの2016年上半期の現在、世界経済危機の可能性がもしまったく人々の念頭にないとしたら、そのほうがよほどおかしい。
第1に、今から8年ほど以前に「リーマン・ショック」と言われる大恐慌に世界が見舞われて後、先進諸国は金融体制の崩壊を防ごうとして、超低金利政策をとった。国によって温度差はあるが、先進諸国が軒並み超低金利政策をとったのは事実である。そしてあれから8年もたったのに、この未曽有の低金利政策から先進諸国は抜け出していないではないか。
このほど米国の連邦準備銀行が「近いうちに金利を上げる」と呼号しているが、米国自体超低金利政策を続けていたのであり、米国は決して世界経済が問題なく回復の途上にあると考えて「金利を上げる」と言っているのではないのは明らかである。それだからこそ2016年冬には、もともと金利上げを宣言していたはずなのに、「世界に懸念」して予定していた金利上げをしなかったのではなかったのか。
もしこのようなぐずぐずとしたことをしている間に、ふたたび恐慌が切迫化した暁には、連邦準備銀行は「金利政策」という手段をふるえなくなる。諸国に先駆けてまず米国だけでも「普通の金利政策」が揮える状態にしておきたいというだけのことではなかろうか。それとも、それ以上のものだとおもうのですか。
第2に、8年前にリーマンショックが起こった際に、世界の皆さんは何と言っていたか? もう忘れたのか。「ずいぶん力不足だとは思うが、これからしばらくの間は、新興国の景気の強さによって世界経済を支えてもらうしかなさそうだ。」中国とかロシアとかインドとか、ブラジルとか、そういう国々に期待していたのではありませんか。さてこの8年間、先進諸国の経済発展が順調に生じて「世界経済を力強く回復させる」なぞと評価できるような事態にはならなかった。超低金利でカネをじゃぶじゃぶばらまいていたのにね。そしてだ。もともとそれほどあてにはならなかった新興国経済が、これから大不況化する懸念がある。いな、すでに大不況化しているとみるべきかもしれない。
米国の金利上げは、新興国経済の運営には、マイナスにしか作用しますまいよ。でも米国は金利上げを呼号している。
以上は、経済学というよりは、道理の理屈であって、この2点を挙げるだけでも、人々が世界経済の危機をたえず懸念していてよい理由になると思いますよ。
ましてや、このたびG7の議長国となった日本の思いからすれば、8年前に同じく日本がG7の議長になったときの思い出が明瞭に残っています。あの北海道洞爺湖サミットですよ。あの洞爺湖サミットがあったたった2か月後にリーマンショックが起こったのではないか。たった2か月後に前代未聞の性質のショックが起こるということを、洞爺湖サミットに集まった世界の最高指導者たちは夢にも思わなかった。なにか、当時、未曽有に世界が発展するとでも思っていたのでしょうね。そのショックがそれから8年たっても、その「影」をちっともぬぐえないことを、安倍首相が伊勢志摩サミットの基調にしたのは当然で、ぶつぶつ反対するものがいたとしても根本的にはそれに反対できないでしょう。
米国はなんとか世界に先駆けて通常の金利に戻したいと思っているのは、2016年初も、今も、同じで、それへの協力を先進諸国に求めているのも、2016年初も、今も、同じではありませんか。ただ、米国としては、なにかこうはっきり主張しにくい立場にあるのも確かで、それを安倍首相が声に出して述べ、ヨーロッパ諸国はぶつぶつ言い、米国のオバマ大統領はニコニコ笑ってそれを容認していた・なにしろ米国の本音そのものを安倍首相が代弁していたようなものですから。
私は、安倍首相はこれでオバマ大統領に「1点貸した」と思いますよ。だからオバマ氏が広島で、特に原爆を投下した謝罪をすることはなく、あらゆる戦没者の犠牲を悼んで引き上げた後、「その返礼」として安倍首相がハワイ真珠湾を訪問して敗戦国として「米国民にお詫び」するということになるとはおもいませんよ。G7の安倍氏の司会ぶりは、オバマ氏自身がやってもあれほど米国の国益を守れるような仕方にはならなかったでしょうよ。