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2016年4月2日号、北海道新聞9ページの「読者の声」を読んでいて、思わず奇異の念に打たれた。竹沢さんという人が、書いた「緊急事態条項の危うさ」という「声」である。安倍首相の示唆するような、政権に強い権限を与える「緊急事態条項」を憲法草案に盛り込む発想は、ナチスドイツがかつてドイツ・ワイマール憲法48条にあった「国家緊急権」を「運用」して決定的なヒトラーへの「全権委任法」を得、ワイマール体制とは似ても似つかない「第三帝国」を作ったありようとあまりにも類似していると、危惧のことばを述べて居られる。
私はいま『世界の名著・トインビー』中央公論社、1967年を読み始めていたが、その16ページで、蠟山政道氏の「トインビー紹介のことば」として、トインビーがカレッジの教師であった頃、第1次大戦が勃発し、大戦の様相がギリシャの昔のペロポネス戦争の様相と似ていることに感銘を受けた、という話が出ている。「そのとき突然わたしの蒙が拓かれた。現在この世界において現に経験しつつある経験は、すでにとうの昔にツキュディデスが彼の世界において経験済みのもの(ペロポネソス戦争)だったのです。いまやわたくしは新しい目をもって、彼、ツキュディデスを再読しつつあったのです。」(トインビーのことば) トインビーはまさに「歴史を再発見した」という思いに打たれるのです。トインビーのこのような思いが、巨大作『歴史の研究』につながったのですね。
歴史は元来決して同じように繰り返しはしません。まったく同じ歴史が二度あらわれることはないでしょう。しかし極めて類似しているという思いを歴史家に抱かせることはないとはいえないのですね。現在の安倍内閣の意図と、前世紀ワイマール体制下のナチスドイツの勃興とは、あまりにも符合する政治的経済的事情が目立つように思い、ご同様、大いに奇異に思います。多数決の名の下に専制を行なおうとする野心が、あるいは両者に共通なので、類似が目立つのかもしれません。
アナロジーはあくまで、アナロジー。同じだとは言っていません。ただ、警世の言葉ととられるがよい。