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世界遺産への取組・第1回
北海学園大学人文学部世界遺産研究班編『世界遺産とは何か?』2020年、同班印刷・刊行、に寄せて、10回程度のコメントとして、掲載します。
この本は、次のように構成されています。
第1章 世界遺産はどのように選ばれるのか。
第2章 縄文遺跡跡を世界遺産にー登録の光と影ー
第3章 世界遺産登録に伴うストーリーの創出と問題点ー「長崎・天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の事例からー
第4章 世界遺産のメタヒストリーー「アイスレーベンとヴィッテンベルクのルターの記念建造物群」ー
第5章 「プランタン=モレトウスの家屋・工房・博物館とその関連施設」から見える世界
第6章 多文化主義社会における「顕著な普遍的価値」ーカナダの世界文化遺産が抱える困難ー
第7章 先住民遺跡観光の現状と課題ーカナダの世界文化遺産が抱える困難ー
第8章 無形文化遺産ー文化を理解し保護する新たな取り組みー
第9章 日本の世界遺産を伝える英語語彙・定型表現ー英語の学びの視点からー
おわりに
執筆者はほとんど、北海学園大学人文学部の先生方です。
ユネスコの世界遺産は、加盟国が自国のしかるべき文化遺産を推薦し、ユネスコのしかるべき審査を経て、世界遺産に認定されるわけです。ユネスコは「人類普遍の価値を有する文化遺産」として認定するわけですが、この認定のありようは本書で詳しく述べられているし、その仕組みを一通り知るためには、日本に他に適当な手に入りやすい文献がないわけではありませんから、コメントは割愛しましょう。
今回はコメントの第1回として、「はじめに」と、「第1章」・「おわりに」を取り上げます。
「はじめに」と、「第1章」・「おわりに」は、論理的には同じ内容のことを、別の筆者がそれぞれの書き方で書いています。内容が重なったことで、論点が強調されたわけだから、それでいいと思いますよ。
「はじめに」では、本書『世界遺産とは何か?』を読む人は、次の三点を常に念頭においてください、としています。
(1) 世界遺産がもつものとされている「顕著な普遍的価値」とはどういう内容のことなのか。
(2) 世界遺産は誰のためのものなのか。
(3) 世界遺産とは観光資源なのか。
この(1)と(2)には、ユネスコ公認の模範解答らしいものがあるわけですね。ところが、(3)の観光資源という「属性」は、ユネスコ当初の模範解答には存在せず、「そういうことを考えるのは、避けがたく、かつ重要だ」とはなるが、なにか吹っ切れが悪いわけです。しかし、文化遺産を提案する各国は、現実には、観光立国のためと、自国の国威発揚のために、この観光資源という「世界遺産の属性」を、強く念頭に置くわけですね。
「第1章」は次のように展開されます。
1. 世界遺産とは何か。
2. 世界遺産活動の基本となるユネスコの平和理念。
3. 世界遺産登録までの長い道のり。
4. 世界遺産の登録を決めるのは誰か。
5. なぜ世界遺産登録を目指すのか。
6. 世界遺産を守るのは誰か。
1から5までの展開は、模範解答的ですね。
筆者がほんとうに言いたいのは、6の論点でしょう。ここでは模範解答も薄弱だ。しかしこの論点がなければ、世界遺産の保護・存続はとうてい図れないではないか。
世界遺産を観光資源として、国も、その遺跡の存在する地方も、保護・存続に努力するでしょう。しかしそれじゃ尻つぼみで、まもなく人が顧みなくなる。大事なのは、この文化遺産を守り、生かす、いろいろの視点を、国も、地方も、意識的に展開することではないでしょうか。この際注意することは、その文化遺産の性質・意義について、実のところではユネスコ公認の普遍的価値とは似て、異なる、数多くの視野がありうることです。それをあえて発掘する努力を意識的にやりなさいと、筆者は薦めているのです。
いま北海道地区では、「北日本」の、「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界遺産に登録されました。この北日本の文化遺産のどういう点が、世界の人類が注目し、観察すべき点なのか、どの時代の世界とかかわるのか、世界のとくにどの地域とどうかかわるのか、これをたいへん具体的な言葉にして、世界の人々に知らせるがよい。大概の人類には寝耳に水の物語なので、「究明」するためにこの北日本の世界文化遺産に関心を寄せるでしょう。そして、その場合、このユニークな「わが縄文文化」は、実は日本列島全体にかかわるのだということを積極的に述べることが、肝要です。
この点、北海道の住民としては、いささか忸怩たる点があることは確かですよ。じつに日本の多くの考古学者すら、「古日本島」(津軽海峡の南側をいいます)中心に考古学を語って、平気でいるのですから、「北日本」という切り方は、日本人の多くにとってすら普段はなじまなかった発想です。もうひとつの「国のまほろば」が北日本に、縄文期1万数千年を念頭に置けば存在したのが現実の歴史だと知っていただくことは、世界遺産の議論の場合には北海道に住むわれわれは、すこし自重しましょうね。うちわもめしていてもしかたがないではありませんか。