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2025-10-14 05:32:00
新しい思想に出会った者が最初に浴びせる「思想感」は、「これは保守反動思想ではないか」、「これは悪名高い人種論の一種ではないか」とするものだろうと、トッド氏自身がよく承知している。「人類の思想たるべきものは、何ものにもとらわれない個人主義に立つべきものだ」と自然に考える人は、「家族の型」という社会的・歴史的前提で考えるという思考は、「とんでもない保守反動」とトッド氏の思考を断じることになるやもしれぬ。もっともトッド氏は「トッド氏の思考が誰にとっても絶対の条件になるべきものだ」とは明らかに考えていない。「抽象的思考の世界」ではかのルネ・デカルトを生んだフランス思想界から出た人だ。抽象的思考に親しんで出発している人である。「こういう思考もありうる」と提示しているのだ。しかも思考の焦点は「政治」という狭いテーマに収斂している。/人種論というのは、ある人種に属する人間が人生で宿命的にある決まった行動様式をとると決めてしまうという考え方だか、ある国民が歴史的に属する「家族の型」がその国民の政治的行動に宿命的にある行動様式をとらせるというトッド氏の思想は、「ある意味で人種論のようなものだろう」とされても、否定はできない。確かにトッド氏の議論では、「国民的な家族の型」の影響から遠ざかる、あるいは縁がなくなってゆく条件がありうることも論じられてはいるが、この条件たるやとてもにわかには間に合いそうもない条件だ。要するにトッド氏は、おそるべき国民国家的政治論を示しながら、だからと言って人類普遍の抽象理論を全否定しているのではない。ありていに言えば、「こういうことも考えてみたら」としているのだ。