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2025-10-15 15:06:00
この『人類史』開巻第一章は、いってみればトッド人類学へ初めての読者を誘うために工夫されたものなのだが、そのくせ、非常に特殊な内容を主題として説き起こされている。この『人類学入門』の全体が、日本国民の政治をトッド流社会人類学で読み解くというわけだが、そのとっぱじめが「日本から家族が消滅する日」という恐るべき題になっている。とり急いでこの第1章の「結構」を示すと、この第1章が日本の女性論として終始しているところが面白い。まず、日本という国民国家の特徴を社会人類学的な「家族の構造」から特徴づける。1.それは「直系家族」という型だ。(これはドイツと同じなのだ。)これを詳しい地域特性を付けて説く。2.日本が少子化を招いているという国民国家の政治的特徴の理由を説明する。3.日本人の女性の権利(女権)の特徴を「アジア東北部では一番強い」と喜ばせてくれるが(ただ、私は、疑うわけではないが、これ本当かな、と思うが)、一転して、「アジア東北部では最も原始的だ」と来る。/このようにめっぽう家族論として語っており、ほかの議論には一切しない。//実はここで近代西欧の成立、民主主義の成立を、トッド氏がどう読み解くのかという話はすっかり外しているのだが、(むろん本論中で詳論されている箇所がある)、ここを外してあるので、日本人には難しくなく、トッド理論のさわりがすんなり理解できるのである。仮に西欧近代を普遍とする信念に立てば、すんなり理解できるものではなかろう。近代西欧の民主主義の成立は従来マックス・ウエーバーの難解な説明があって、私もそれに従っていたが、トッド氏の理解はおなじく社会学でもウエーバーとはずいぶん違うのだ。これを論じているだけで、分厚い本一冊はまちがいなく必要だ。それを今は省いているのである。/ここで読者が、「同じことが英米仏ではどうなの」と来ると、この本は結構を変えて出直すしかない。さっき私が書いたように、180年前のイギリスの看護婦さんは、看護に献身しながら、なんとその政治的行動で女性を解放してしまっているよ。こういうのはどう読み解くのかね。それは「核家族」の含む原始的な自由という属性の表れなのだが。いまはこの程度でご勘弁を。